下肢静脈瘤は、足から上半身に向かう静脈内の血液の逆流を防止する「静脈弁」が必要以上に開いたり、弁が壊れた状態となり、血液が逆流することにより、足の静脈の血管内に血液が徐々に溜まり、静脈の血管が数珠状に膨らんでしまう病気です。
下肢静脈瘤は血管を扱う血管外科医もしくは循環器内科医が診断・治療していく疾患で、血管外科や循環器内科を標榜していないクリニックでの治療・手術は大変危険です。また、下肢静脈瘤手術において保険適応外の自費手術をすすめてくるクリニックも存在しますが、我が国のガイドラインで定められていない手術器具を使用しての手術法です。下肢静脈瘤手術において保険適応で手術できない病変は存在しません。
下肢静脈瘤のメカニズム
下肢静脈瘤の治療方法
当院では症状と下肢超音波検査の結果から、当院院長の血管外科医が責任を持って正しい診断と患者様に十分な説明を行い、患者様の希望も含めて最も適切な治療方法を選択します。下肢静脈瘤の治療は全て保険適応で治療します。
下肢静脈瘤の各種治療の比較
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術後の痛み |
治療効果 |
日常生活への制限 |
保険適応 |
弾性ストッキングのみ |
― |
× |
×~△ |
一部適応(注1) |
硬化療法 |
◎ |
△ |
◎ |
適応 |
高位結紮術 |
△ |
△ |
○ |
適応 |
ストリッピング手術 |
× |
◎ |
△ |
適応 |
レーザー治療 |
○ |
◎ |
◎ |
適応 |
グルー治療 |
◎ |
◎ |
◎ |
適応 |
- 青枠:当院で行っている治療
- 注1:リンパ浮腫や入院後の深部静脈血栓症など一部保険適応です
治療方法
弾性ストッキングによる圧迫療法
ふくらはぎを圧迫し足にたまった血液を下から上へ押し上げ、症状の改善をはかります。しかし、弾性ストッキングを脱いでしまえば、効果はなくなります。また、長期間のストッキング着用により、皮膚がかゆくなったり、かぶれたりすることもあります。まずは、弾性ストッキングをはいて経過をみるというのも、一つの選択肢です。ただし、弾性ストッキングをはくことは、根本的に治す治療ではなく、あくまでも症状の改善を図るための保存的治療になります。
硬化療法(保険適応)
- 硬化剤(ポリドカスクレロール)の写真
硬化剤(ポリドカスクレロール)というお薬を注入して、外から圧迫をすることで静脈を閉塞させる治療です。直径3mm以下の小さな静脈瘤に対して適しています。治療は15分程度で終わりますが、静脈瘤が広範囲にわたる場合は複数回に分けて行うこともあります。硬化療法単独での治療よりは血管内治療後に追加することが効果的な治療法です。針を刺すだけなので、傷跡ができないですが、硬化剤により静脈に炎症を起こさせるので、お薬の注入時には痛みを感じます。静脈の走行に沿って色素沈着(皮膚のシミ)ができることがあります。
血管内治療(保険適応)
①血管内焼灼術
静脈の中に細いレーザーファイバーを通して、レーザーの熱によって静脈をふさいでしまう手術です。2014年に、波長1470nmレーザー治療が保険適用となっています。2011年より波長980nmレーザー治療は保険適用となっておりましたが、疼痛や皮下出血が起こりやすいという問題がありました。波長1470nmレーザー治療は、波長980nmレーザー治療と比較して、疼痛や皮下出血が減少しています。当院では波長1470nm半導体レーザーと全周性照射ファイバー(Radial fiber)を使用した血管内レーザー治療を行っています。麻酔はTLA麻酔(局所麻酔)で行い、症例によってはふくらはぎの静脈瘤はStab avulsion法(スタブ・アバルジョン法)で取り除きます。Stab avulsion法とは特殊な器具を使って1-2mmの傷から静脈瘤を取り除く方法です。スタブ・アバルジョン法による傷は非常に小さいので、傷跡も目立ちません。この一連の治療は長年静脈瘤手術を経験した血管外科医にしかできません。
レーザーファイバー(Radial fiber)の写真
ELVeSレーザー1470の写真
②血管内塞栓術…グルー治療(ベナシール治療)
静脈の中に医療用の瞬間接着剤を静脈の中に注入し固めて、逆流をとめる新しい治療方法です。2019年12月より保険診療となりました。今までのレーザーやラジオ波による血管内焼灼術では、静脈を焼いてふさぐ治療のため、わずかですが神経障害などの合併症がおこることがありました。しかし、ベナシール治療では血管を焼灼させることはないのでこれらの合併症がほとんどおこりません。カテーテル挿入部位の1ヶ所のみの局所麻酔だけで治療可能で、術後の弾性ストッキング着用も必要がない場合があります。当日から仕事復帰も可能です。また、この治療で使用するシアノアクリレート系の瞬間接着剤は、これまでも医療用として血管内治療や皮膚接着などに広く使われており、安全性も問題ありません。
グルー治療(ベナシール)
ベナシール(主成分:シアノアクリレート)
民間の保険について
民間の医療保険あるいは生命保険にご加入されている方は、日帰り手術(レーザー治療、グルー治療)をうけたときに手術給付金が支給される場合があります。通常、治療方法とは関係なく入院給付金日額の10倍(入院給付金が5,000円なら5万円)程度が支払われます。ご本人の加入されている保険によっては給付されない場合もありますので、詳しくは各保険会社にお尋ねください。保険給付ご希望の方は、各保険会社の所定の診断書をご持参いただければ当院で記載いたします(有料)。治療費が給付されるのは通常、手術のみで、硬化療法は給付の対象になりません。